桔梗は物語から退場した後も、とある仕掛けで奈落を脅かし続けます。

それは、桔梗が最後の戦いの中で遺した清浄な光
この光が奈落が持つ汚れた四魂の玉の中にある限り、最後の欠片を取り込んだ瞬間、奈落を魂ごと浄化することができるのだそうです。

そしてその最後の欠片の持ち主こそが、琥珀でした。
桔梗が亡くなる直前まで行動を共にしていた琥珀。その後は殺生丸一行についていったりもしましたが、紆余曲折の末、自分が犯した罪に苦しみながらも犬夜叉一行に合流します。

終盤の53巻。
奈落と対峙し自分の過去を受け止め、前に進もうと決意した矢先―――ほんの一瞬の隙を突き、琥珀の欠片は奈落に奪われてしまいました。
四魂の欠片で命をつないでいた琥珀は息絶えた筈でしたが・・・

琥珀の体には、桔梗の清浄な光が輝いていました。


54-1.png 高橋留美子「犬夜叉」/小学館 54巻 p.21

「桔梗は・・・奈落を滅することより、琥珀くんの命を救うことを選んでくれたんだわ」


奈落を浄化するためだったはずの光は、桔梗の意志で四魂の玉から離れ、琥珀の体に残った。
つまり桔梗は末期の力を振り絞って遺した光で、奈落を倒すことよりも、琥珀の命をつなぐことを選択した・・・ということでした。(桔梗の光にそこまでの力があるのか?という突っ込みはおいといて)


光が琥珀の命として宿ったことで、桔梗の役目は終わりました。
桔梗が奈落と戦うことはもうありません。

敵討ちよりも少年の命を選ぶ。
慈悲深い桔梗ならばおかしい選択でもありませんが、桔梗の光が奈落との最終決戦でどんなふうに活躍するのか・・・といろいろ考えていた身としては、当時はちょっと唐突にも感じていました。

そこで、なぜ桔梗は琥珀を救うことを選んだのか。
改めて桔梗と琥珀について読み直し、考察していきたいと思います。




一、琥珀という少年

まず琥珀についてです。
琥珀は退治屋・珊瑚の弟で、少し気の弱い、心優しい少年でした。
しかし人見城に妖怪退治に赴いたとき、奈落の罠にかかり、父親と里の仲間たちを惨殺


9-1.png 高橋留美子「犬夜叉」/小学館 9巻 p.150-151


蜘蛛の糸で操られるままに姉の珊瑚まで手にかけてしまい、最後は弓矢で射抜かれて絶命します。

そのまま死んだと思われていた琥珀ですが、その後、奈落によって四魂の欠片で命をつながれた状態で再登場しました。自分に関する全ての記憶を消され、奈落の操り人形として暗躍させられる琥珀。
そんな琥珀の存在は、珊瑚の心にも暗い影を落とし続けます。


二、同じ心の傷を持つ者

桔梗と琥珀の出会いは38巻。
奈落の瘴気に体を蝕まれ、自分に残された時間が少ないことを悟った桔梗は「奈落が完全な四魂の玉を手に入れた時、四魂の玉ごと奈落を浄化する」と犬夜叉に告げました。

四魂の玉の完成は、欠片で命をつなぐ琥珀の死を意味します。
それを聞き、全ての記憶を取り戻していた琥珀は、桔梗の後を追い自分の欠片を使うように懇願しました。
こうして桔梗&琥珀という組み合わせが誕生します。

この二人にはいくつか共通点があります。

奈落の罠によって命を落としたこと。
大切な人を手にかけてしまったこと。
死魂や四魂の欠片といった「なにか」によって命をつながれていること。


同じ心の傷を持つ二人。その一方で二人は「命を使う者」「命を使われる者」でもありました。


桔梗は琥珀の欠片を清浄に保つことで、いざという時の武器にする。
琥珀は奈落への復讐と自身の贖罪のため、大切な姉を犬夜叉に託し、桔梗に命を預ける。



しかしそんな関係にもかかわらず、二人はお互いを思いやり、寄り添うように行動を共にします。


46-5.png 高橋留美子「犬夜叉」/小学館 46巻 p.10



「どうしてだろう・・・桔梗さまのそばにいると、どんどん楽になってくる・・・」
「まるで、心を清めてもらっているような・・・」


珊瑚に「なぜ桔梗と行くのか」と聞かれた時、琥珀はこう答えました。ただ四魂の欠片を清められているだけではなく、心まで癒されている、と。
桔梗が琥珀をただの道具としてしか見ていないならば、感じるはずのない感情です。


三、桔梗の葛藤と迷い

「命を使われる者」である琥珀が癒されているという一方で、「命を使う者」である桔梗は葛藤していました。
犬夜叉が「(琥珀の命をひきかえに・・・)桔梗、おまえはそんなことのできる女じゃねえ」と言うように、桔梗には誰かの命を平気で犠牲にできるような冷酷な人間ではありません。

復活直後の愛憎に囚われていた時すら、村々を渡り歩き、戦いに傷ついた者たちに寄り添っていました。
犬夜叉(とかごめ)や奈落に対する激しい感情を向ける反面、弱者には生前と変わらずに尽くし、慈悲深く接していた桔梗。偽っているわけでもなく、これもれっきとした桔梗の一面です。
27巻で七人隊の睡骨に自分の四魂の欠片を取るよう頼まれた時さえも、桔梗は最後まで決断することができませんでした。


45-1.png 高橋留美子「犬夜叉」/小学館 42巻 p.12



ましてや琥珀は自分よりもずっと幼い少年なのに、自分と同じ心の傷を背負っています。
琥珀には、桔梗がかつて抱いたような生への執着もありませんでした。

死ぬことに恐れも迷いもない。それほどまでに生きていることが辛い。


45-2.png 高橋留美子「犬夜叉」/小学館 42巻 p.13


そんな琥珀を癒し、生きるよう勇気づけるのではなく、その命を犠牲にするしかない自分。
桔梗は葛藤し続け、犬夜叉たちには見えない形で当初の目的とは別の道はないのかも探り続けていました。


44-2.png 高橋留美子「犬夜叉」/小学館 41巻 p.190


奈落の心臓を覆う魍魎丸を倒し、琥珀の欠片を使わずに戦いを終わらせようとしたこともありました。
しかしそれが失敗に終わった時。



44-1.png 高橋留美子「犬夜叉」/小学館 45巻 p.47


戦いの犠牲を減らそうと、鋼牙に四魂の欠片を渡すように迫った時。

桔梗は何度となく、琥珀の命を使うことへのためらいと、罪の意識を抱き続けます。
犬夜叉たちは何度も桔梗を止めようと説得を試みましたが、桔梗だって平気なわけがありません。

孤独に旅を続けてきた桔梗が、誰かと行動を共にしたこと初めてです。
戦いの合間、誰かとゆっくりと小川の流れを眺めるなんていうことも初めてだったと思います。そういう意味では桔梗もまた、琥珀といることで癒されていたのかもしれません。


だからこそ、「救えるものなら・・・」と迷い続けた桔梗。
奈落に敗れて身動き一つとれなくなった時も、桔梗は弓矢と、真っ先に琥珀のことをかごめに託しました。

・・・とはいえ、桔梗がこの時点で琥珀の命をつなぐことを選んでいたとは言い切れません。
琥珀の命を救えるものなら救いたい。
けれども桔梗にとっては自分と犬夜叉を罠にかけ、自身を死に追いやった奈落を滅ぼして全てを終わらせるという目的が最優先だったはずです。

なぜ、琥珀の命を選ぶことができたのでしょうか。


四、「光」の選択

53巻で曲霊に乗っ取られ眠り続ける間、琥珀は汚れた欠片の力で過去の記憶を見続けていました。
父と仲間を殺し、大切な姉も傷つけた忌まわしい記憶。
その心が壊れる寸前、助けを求める琥珀のもとにが現れます。


53-3.png 高橋留美子「犬夜叉」/小学館 53巻 p.108


それは四魂の玉から離れ、琥珀の欠片に移った桔梗の光でした。
光に導かれた琥珀は、過去ではなく「これから」の希望を見ることで目覚め、自分を乗っ取っていた曲霊も追い出します。

「そうか・・・あれは桔梗さまの光・・・」
「過去から今に連れ出してくれた!!」


あのまま死んでいたらどんなに楽だったかと悩み、傷つき続けた琥珀。

けれど光で目を覚まし、みんなが贖罪のために死ぬのではなく、生きて立ち向かえと言ってくれていることを知り、桔梗の光と共に奈落を追い詰め撤退させることができました。

「姉上、俺は生きていていいんですか?」
「おれの罪は消えたわけじゃない。だけどもう逃げない。向かいあって生きる。これから―――」


そう一歩踏み出そうとした矢先、身を潜めていた奈落に欠片を奪われてしまいます。
絶望する犬夜叉たち。しかし琥珀の体には桔梗の光が残っており、琥珀は蘇生しました。

桔梗が琥珀の命を選んだことで、奈落との戦いは犬夜叉たちに託されました。
つまり桔梗は、犬夜叉とかごめ、その仲間たちならば奈落を倒すことができる――― そう信じたということです。

刀では奈落を倒せない。
奈落を魂ごと消すためには、自分が四魂の玉の力を使うほかはない。


そう頑なだった桔梗ですが、琥珀の欠片を使わずに済むよう懸命に戦う犬夜叉たち、なにより自分を救うために梓山の試練を乗り越えたかごめの姿を通して、その力を信じられるようになったんだと思います。

志し半ばで倒れたのにもかかわらず、「救われた」と微笑み、涙を流して天に還ることができた桔梗。

自分は救われた。
だからこそ、琥珀にも救われてほしい。「これから」を生きてほしい。


犬夜叉たちへの信頼が、桔梗に琥珀の命をつなぐという選択をさせた。
犬夜叉たちなら奈落を倒し、過去と向き合って生きていく琥珀を支えることができると信じたからこそ、自分と同じように深き傷つき続けた琥珀を救うことを選ぶことができた―――と。


桔梗の光は命を犠牲にするのではなく、命をつなぐために使われた。

そう考えると、奈落を滅ぼすことこそ叶わなかったものの、桔梗が遺したものは決して無駄ではなかったんだと思います。






桔梗と琥珀の組み合わせは結構好きでした。
上にも書きましたが、これまでずっと一人で旅を続けてきた桔梗に、初めてできた“同志”である琥珀。
戦いの合間、ほんの少しでも二人で寄り添いあって、心を休める時間があったならいいなぁ・・・。

二人の姉弟のような、母子のような関係をできることならもう少し見ていたかったです。





・・・それにしても・・・



桔梗といい殺生丸といい、作中で一、二位を争うであろう打ち解けにくい人物たちと行動を共にできる琥珀は違った意味でもすごいと思いました。




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