昨年1月から発売されたワイド版も、いよいよ15巻が発売されました。


犬夜叉 15 (少年サンデーコミックススペシャル)犬夜叉 15 (少年サンデーコミックススペシャル)
(2014/03/18)
小学館

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内容はというと、白霊山編(七人隊編)も終盤。
睡骨、蛇骨、煉骨が斃れ、七人隊の生存者(?)も残すところ首領・蛮骨のみとなり、いよいよ犬夜叉との一騎打ちが始まります。
その裏では奈落が例によって体を組み換え「その時」を待っていたり、内容の濃さは相当なものだと思います。





なかでも自分が好きなのは、白心上人と桔梗の問答です。
白霊山を覆う清浄な結界。それは奈落の邪気を隠すため、白心上人という即身仏が張ったものでした。

無題4 高橋留美子「犬夜叉」/小学館 28巻 p.6

かつて聖者として白霊山の麓のお清め所で人々の魂を救い続けてきた白心上人は、飢餓や疫病の苦しみから民を救うため、即身仏として入滅した---かに思われていましたが、実際は生への執着と闇(死)への恐怖に懊悩したまま絶命。それは、自身が望んだ聖職者の最期とは程遠いものでした。

即身仏となることを望まれ、尽くし続けた民から死を願われる自分。その憎しみや恨みが白心上人の魂を死後も現世にとどめ、その心の隙に付け入ってきた奈落を守るため、まやかしの聖域を張りつづけていました。

その魂を癒す役割を担ったのが、ほかでもない桔梗です。

無題1 高橋留美子「犬夜叉」/小学館 28巻 p.50

「この世に迷いなき者---一点の汚れもなき者などいるでしょうか」
「私も---生前はそうでした。迷わぬよう、間違えぬよう生きようとしていた」
「迷うのが人間です。だからこそ、崇高でありたいと望む---」


桔梗と白心上人は似ています。
聖職者であったこと。自分を押し殺してでもまっすぐ生きようとし、人に尽くし続けたこと。
しかし崇高であろうとした自分の理想から、最期の最期で逸脱してしまったこと。

桔梗の場合、守護するように仰せつかった四魂の玉を、争いをなくすためという建前があったとはいえ勝手に消滅させようとしたわけです。その時点で聖職者としては逸脱しています。建前のなかに自分の欲(=もう闘いたくない)も含まれていたわけですし、自分の願望と理想を混同してしまっていました。

聖職者として正しく生きるのではなく、「ただの女」であることを望んでしまった過ち。
その結果、己の命を失い、愛する者を封印するしかなかった後悔。
望まぬ復活後、死者の魂を利用してでも断ち難かった生への執着と犬夜叉への未練。
同じ魂を持ちながら、生きて犬夜叉のそばにいるかごめへの嫉妬。


桔梗も自分の弱さを嫌というほど見せつけられ、打ちのめされてきました。

無題2 高橋留美子「犬夜叉」/小学館 28巻 p.57

「命を惜しみ涙することは、恥ではありません」

この言葉は、そんな桔梗だからこそ言えたんだと思います。

魂に触れてみても「恨みや憎しみ」ではなく、「哀しみ」しか伝わってこないという桔梗。
そこで白心上人は、ようやく自分が人間や世界を恨んでいたのではなく、死への恐怖に負けた己の弱さを哀しんでいたことを悟ります。

無題 高橋留美子「犬夜叉」/小学館 28巻 p.72

そして桔梗の腕の中で、静かに成仏しました。白心上人の最期は、とても安らかなものでした。

桔梗が同じように救われるのは、あと20巻も後のことです。それまでにまだまだ多くの試練や苦しみが待っているのですが、今この場面を読み返してみると、すでに桔梗の最期が示されていたように思いました。
桔梗自身もまた白心上人や、高橋先生が「桔梗にぴったりはまる相手だった(*1)と言う睡骨の最期を見届け、死人である自分がいつか辿る道を思い知ったのかもしれません。





このエピソードは個人的に「犬夜叉」全編を通してトップ5に入るくらい大好きなんですが、その理由として、桔梗が本心を語る数少ない場面である、というのがあります。

桔梗は、自分の本音や想いをあまり洩らさないキャラクターです。
彼女の一人ですべてを抱え込んでしまう性格や、巫女としての矜持がそうさせるのだと思います。
犬夜叉たちや奈落はもちろん、読者すら何を考えているかわからない。だから自分も未だにあーだこーだ考察もどきをしているわけですが・・・。

その桔梗が、魂を鎮めるためとはいえ他者に生前の自分のことや想いを素直に打ち明けたのはここくらいじゃないかなぁ、と。
あと、

「苦しかったのですね」
「あなたはじゅうぶんに、人々に尽くしてこられた」
「もう・・・もう自由におなりください」


この台詞、もしかすると、桔梗が生前望んでいたものかもしれないと思って切なくなりました。
誰かに頑張りを認めてほしくて、「もういいんだよ」と言ってほしかったのかもしれない。なんだかんだいってもまだ十八歳、すべてを背負うには重過ぎたんだろうなぁ・・・。





ワイド版は全30巻なので、この巻でようやく折り返し地点です。
ワイド版はエピソードを区切りよく収録しているので、単行本よりも読みやすく、読み返すたびに色んな再発見があって楽しいです。

あと15巻、必ずくるであろう巻末の桔梗特集を今から正座待機していたいと思います!


(*1) 高橋留美子「犬夜叉」ワイド版14巻 高橋留美子インタビュー犬夜叉語り/小学館 p.336



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